TaKaKuAtの日記

インドネシア語の学習記録です。

インドネシア国家警察内で発生した部下射殺隠ぺい事件について

 

こんばんは。

今回はここ二か月間、インドネシアの世間を騒がせている「インドネシア警察高官による部下射殺隠ぺい事件」について書いていきます。

 

7月中旬の事件発覚当時から、「被害者の遺体と警察の捜査に不審な点がある」とSNSで話題になっていましたが、話がややこしそうだな…と思いこの事件に関し深追いするのは避けていました。しかし、8月下旬から捜査に大きく進展があり、メディアでも連日取り上げられるようになったので、遂に知りたい欲に負けてしまいました。今回はここ2週間、ニュース、YouTubeTwitterInstagramなどでかき集めた情報を、できるだけ見やすいように表にまとめてみました。

 

情報の誤りや私の訳し方で至らない点があれば、ご指摘頂けると嬉しいです。

 

 

記事の内容は大きく分けて、

  • 事件関係者まとめ
  • 事件発生前から現在に至るまでの出来事まとめ
  • 関連機関・用語について

となっています。

 

事件について

7月8日、インドネシアの首都の一角で、警察官同士が銃で撃ち合った末の死亡事件が起きた。被害者は上官の妻に対し性的暴行をしようとし、それを制止しようとした部下に発砲した。その正当防衛として、同部下も被害者に発砲、結果として銃殺してしまった。この事件は警察内部で事件処理が進められていたが、3日後に公になる。被害者の遺族が遺体を目にして、死亡の経緯に多くの不信点を感じたからだ。現在までの捜査で、ある一人の警察高官による計画的な殺人ということが判明しているが、その動機などはまだ謎のままである。

 

 

事件についてのより詳細は、こちらの記事をお読みください。↓

plus62.co.id

 

事件関係者まとめ

青塗は被害者、赤塗は当事件の5人の被疑者、黄色はその他の関係者です。



インドネシアと日本の警察組織では、構造が大きく異なります。インドネシア警察は2000年にインドネシア国軍から分離した組織であり、比較的新しい国家機関です。2001年から日本(JICAや警察庁)が国際協力の名のもと、インドネシア警察の体制整備に励んではおりますが、近年に至るまで警察官による賄賂・汚職事件が問題になっています。

https://www.jica.go.jp/project/area/program/0060000000010/index.html:JICAプログラム概要について

https://www.japinda.or.jp/indonesiakeisatsuインドネシアの警察について

 

以下の図で事件関係者たちの階級などをご確認ください。日本警察は、警視総監・警視監・警視長・警視正・警視・警部・警部補・巡査部長・巡査の9階級からなりますが、一方でインドネシア警察は22階級に分けられています。階級名も国軍時代の名残が強く残っているように感じます。

インドネシア国家警察階級表

 

インドネシア国家警察組織図(赤く囲ってあるものがサンボ被疑者の元の役職)

画像引用元:https://openjicareport.jica.go.jp/pdf/12302667.pdf



 

事件発生直前~現在までの出来事まとめ

 

被害者一行の道程

マゲランから事件現場であるドゥレン・ティガまでの距離関係

サンボ被疑者は飛行機でマゲランからジャカルタへ帰ったようですが、その他の者は車で帰ったようです。私はインドネシアに行ったことがなく、距離関係がよく分からなかったので、Googleマップで調べてみました。この2つの地点は、車だとおおよそ7時間半かかる距離にあるようです。

 

 

関係機関・用語まとめ

PPATK

「Pusat Pelaporan dan Analisis Transaksi Keuangan」の略で、金融取引報告分析センターと訳されています。

マネーロンダリングを防止・撲滅することが主な使命で、独立した国家機関です。今回の事件に関しては Konsorsium 303の解明のため独自捜査に乗り出しました。

 

IPW

「Indonesia Police Watch/インドネシア・ポリスウォッチ

警察機関に関心のある専門家、記者、学者などから構成される市民団体。現在の代表は Sugeng Teguh Santoso (スゲン・トゥグ・サントソ)。

主な役割は、警察活動を監視し問題点を報告したり、市民からの警察による不正行為の苦情などを受理、弁護を行ったり、警察の取り組みを調査、評価をし、助言をしたりします。

http://www.policewatch.id/tentang-kami/

 

Sidang Kode Etik

警察部内での職業倫理違反者に対する査問。倫理査問と訳しました。

警察官によって構成されるKKEP (Komisi Kode Etik Polri/国家警察倫理委員会) が主体となって違反行為の調査、違反者に対する査問、制裁の決定、違反者への倫理指導などを行います。KEPP (Kode Etik Profesi Polri/国家警察職業倫理) には警察官として、公私において守るべき道徳心や行為が規定されています。違反者には、昇任の延期、給料減額、口頭注意、左遷、免職などの行政罰が下されます。

 

PTDH

「Pemberhentian Tidak Dengan Hormat」の頭文字を取って作られた略語。「懲戒免職」と訳しました。重い倫理違反行為に対し与えられる制裁で、免職になった者は、通常公務員に与えられている年金を得る権利がなくなります。サンボは懲戒免職処分を受けるのを見越して自主退職を願い出ていましたが(年金が受給できるので)、却下されました。

 

Rekonstruksi/Reka Ulang

事件現場や関係する場所で、被疑者たちに実際に当時の行動などを再現させる捜査方法。被疑者、被害者役は皆、識別しやすいように名前と立場(被害者・被疑者等)が書かれたネームプレートを身に付けています。勾留されている被疑者は一様にオレンジ色の服を着ています。先日の再現では、多くの報道陣も居合わせていました。インドネシア警察は捜査一つ一つが国民に対しとてもオープンであるように感じます。非公開な捜査も勿論ありますが、日本と比べると違いは歴然です。国民からの信頼がまだ低いゆえに、警察の捜査の正当性を積極的に発信していく必要があるのかもしれません。

 

個人的にとても気になったのは、サンボ被疑者の手首を縛っている結束バンドです。ゆるゆる過ぎて意味ないでしょ!と思わず突っ込んでしまいました。

画像引用元:https://bangka.tribunnews.com/2022/09/01/pantes-sering-dipakai-mliter-as-inilah-kekuatan-borgol-plastik-yang-terpasang-di-tangan-ferdy-sambo

 

結束バンドについて調べていたら、私と同じように感じる方がいたようで、こんな記事を見つけました ↓

https://bangka.tribunnews.com/2022/09/01/pantes-sering-dipakai-mliter-as-inilah-kekuatan-borgol-plastik-yang-terpasang-di-tangan-ferdy-sambo

この記事では「結束バンドは携帯しやすく、破損しにくく、拘束具として充分手錠の役割を果たせる」と書いてありますが、私としては、結束バンドを手錠の代わりに用いているのを疑問に感じるのではなく、この ”付け方” に対し、形だけ拘束しているように見せていると感じるので、モヤモヤします。

 

SP3

正式名称は「Surat Perintah Penghentian Penyidikan」

日本語だと「捜査打ち切り命令書」でしょうか?

リチャードが被害者に発砲し死亡させた後、サンボは「SP3を出してすぐにこの件の捜査は打ち切りにさせるから」とリチャードに約束したそうです。しかし、被害者の遺体を見た被害者の父が、被害者の死と警察の捜査に不審点を感じ警察にさらなる捜査を求めたことから、結局打ち切りにはならず次々と犯行が暴かれていきました。

 

Konsorsium 303

コンソーシアム(consortium)は、協会・組合・連合・共同体などの意味を持つ英語です。ビジネスの場では主に「共同事業体」と意味付けられます。”303”は刑法第303条賭博行為に関する罰則を定めた条に由来していると考えられています。

従って、8月中旬からSNSに流出しだしたこの相関図は、「闇ビジネス、特に違法オンライン賭博に共に関与する”共同事業者”」の関係性を描くものであると私は認識しています。

この図によると、国家警察で大きな権力を有するサンボはいわば「盾」のような存在で、賭博・売春・鉱業・石油関連の不正商売・取引が当局の網にかからないように動いていたことが判明しました。当然その見返りも受けていたようです。

この相関図は、警察捜査で作成される図に酷似しており、警察組織内部から故意に流出されたのではないかとの意見もあります。

 

 

Subsider/juncto

リチャードとリッキーに掛けられている嫌疑が異なることに気が付きました。

リチャード:Pasal 338 KUHP juncto Pasal 55 dan Pasal 56 

リッキー:Pasal 340 KUHP subsider 338 juncto Pasal 55 dan Pasal 56 

↓ の記事によると、刑法第338条は通常の殺人行為(衝動的に殺意が芽生えため、相手を死に至らしめるつもりで行った行為で、行為の結果相手が死亡した場合)に対し課せられ、刑法第340条は計画殺人(殺意が芽生えてから一定期間考え直すための時間があるにもかかわらず、殺人が成功し捜査の目から逃れられるよう策を練り、実行し、相手を死に至らしめた場合)を行ったと認められる場合に適用されるそうです。刑法第340条の方が罪が重く、刑罰は死刑又は終身刑若しくは20年以下の懲役になります。

https://gorontalo.pikiran-rakyat.com/viral/pr-1965218568/serupa-tapi-tak-sama-mengenal-pasal-338-kuhp-untuk-bharada-e-dan-pasal-340-kuhp-bagi-brigadir-rr#:~:text=Dilansir%20dari%20channel%20YouTube%20Ngopi,paling%20lama%20lima%20belas%20tahun%E2%80%9D.

ここでまだ気になることがいくつか…"subsider" と "juncto" です。

↓ のサイトでは、"subsider=pengganti" と説明されていました。つまり計画殺人の犯罪行為が十分に立証できなかった場合、通常の殺人罪で罰せられるということでしょうか?

また、"juncto" については、2つの法令や条、規則等を関連付ける役割があると書かれていました。刑法第55条は犯罪の実行者に刑罰を与えること、第56条では犯罪行為の幇助をしたものに対し刑罰を与えることが規定されているので、この "juncto" 以下の2つに関しては殺人行為をした犯人として罰するための法的根拠的な意味で付け足されているのかなと考えています。見当違いだったら申し訳ありません。勉強します!

https://tirto.id/apa-yang-dimaksud-juncto-subsider-dalam-hukum-di-indonesia-gu3p

https://tirto.id/isi-pasal-55-dan-56-kuhp-tentang-pelaku-pembantu-tindak-kejahatan-gu5T

 

 

 

 

参考:

https://www.youtube.com/watch?v=ZCSuOv22-tw&t=29s:被害者一行のマゲラン訪問について

https://www.kompas.tv/article/324571/komnas-ham-brigadir-j-gendong-putri-candrawathi-di-magelang-tanggal-4-juli:被疑者妻に対する被害者の性的暴行について

https://news.detik.com/berita/d-6249046/hasil-autopsi-ulang-brigadir-j-ini-penjelasan-lengkap-ahli-forensik:被害者の遺体再司法検分について

https://kabarbanten.pikiran-rakyat.com/nasional/pr-595193291/ini-tugas-baru-irjen-pol-ferdy-sambo-setelah-dicopot-dari-kadiv-propam-dimutasi-ke-pati-yanma-polri:サンボ被疑者の解任・異動について

https://www.youtube.com/watch?v=qHOwQgOylSoインドネシア国家警察長官の公開意見討論会での様子について

https://nasional.kompas.com/read/2022/09/02/15265451/polri-siapkan-sidang-komisi-banding-untuk-ferdy-sambo:サンボ被疑者が警察倫理査問を受ける様子について

https://www.youtube.com/watch?v=evM6bfiWlKU&t=304s:犯行現場再現について

https://www.kompas.com/tren/read/2022/09/02/140500865/termasuk-ferdy-sambo-ini-daftar-nama-7-polisi-tersangka-obstruction-of
https://nasional.tempo.co/read/1629556/fakta-fakta-penetapan-tersangka-obstruction-of-justice-di-kasus-brigadir-j
:サンボ被疑者含む複数の警察官が司法妨害の被疑者と認定されたことについて

 

 

難しくて結局全然まとめられませんでしたが、インドネシア警察や関連機関などについてとても勉強になりました!

インドネシアの公務員、特に警察のこの”腐敗”は何が根本的な原因となっていて、どうすれば警察官一人一人が確固とした職業倫理の下、公正公平に職務を全うしていけるようになるのでしょうか?個人の意識を変える必要があり、なかなか難しいことのように思います。

「正直者が馬鹿を見る」ような状況がこの先少しでも改善されていくといいなと願うばかりです。

https://www.jinji.go.jp/hakusho/h26/1-2-02-2-3.html:東アジア諸国が改革を必要としている分野:倫理の保持・腐敗防止

 

 

 

今回もお読みいただきありがとうございました。

 

6 September 2022 Takakuat